つい先日、NHKの朝ドラに"高学歴のチンドン屋"である古い友人が出てたので思わず"見たぞメール"してしまった、開発部のフヂです。
さて、巷でひそかに噂されている(笑)、PCL86シングルステレオパワーアンプキット[TU-8100]がいよいよリリースされました。どうぞよろしくお願いいたします!
カタログ的なご紹介は[こちら]をご覧いただくとして、ここでは補足や裏話などを・・・
TU-8100は、数年前からあたためてきた次のようなコンセプトから生れました。
[1] 信号系全段真空管式アンプをもっと手軽に使えるように、小形・軽量化したい。
[2] 手軽に、ということは安全性もアップさせたい。
[3] もっと組み立てやすくして、組み立て的にも手軽にしたい。
[4] しかし特性や音質は犠牲にしない、むしろ上げたい。
小形化に関しては、以前、かなり小形のTU-894というモデルがあり、このシャーシサイズ(W140×D140 mm)が絶妙に"いい感じ"だったので、それを目標にしました。
ただしTU-894は0.7W×2というパワーでした。でも2W×2くらい欲しい・・・ となると出力トランスや電源トランスは当然大きくなり、TU-870Rに使用しているクラスが必要です。当初はそれらをムリヤリ押し込めるシミュレーションを行いました。しかし配置構造が複雑になって[3]に反します。しかもトランスどうしを近づけると磁気的に干渉してどうしても「ブーン」とハムが発生するので、[4]にも反します。
そこで、思い切ってDC12Vを電源とし、B電源は高周波で昇圧するインバータ方式を検討しました。昇圧トランスは2次側の巻き数がどうしても多くなるので、インダクタンス、寄生キャパシタンス、駆動周波数の関係で何度も試作を重ねることになり苦心しました。インバータ方式によりハムはほぼ皆無になり、心配していた高周波ノイズもフィルタとシールド板でしっかり抑えられたので採用。そして今どきのACアダプタは240Vまで使えるので海外でもそのまま使えますし、12Vなのでバッテリー駆動だって可能です。一石で三~四鳥を得る結果になりました。
基板上の半田付けは初心者でも意外にうまくできますし、楽しい作業です。その一方で、シャーシにトランス、スイッチ、端子類をシャーシにねじどめして、基板との間をコードでの配線をするのは、初級者にとっては難しくて失敗も多く、慣れてる人でも時間がかかって面倒くさいだけの作業だと感じる人も多いかも知れません。メンテ時にバラすのも大変です。そこで、端子類、トランスを含め、電子部品は徹底的に基板上に実装するようにして、コードによる配線をなくしました。これにより、たとえば半日の工作教室なんてのも開催しやすくなりそうです。
出力トランスも基板実装タイプにするのを機に、インピーダンス、インダクタンス、巻き方も見直して、これまた何度も改良試作を重ねて良いものができました。
真空管にPCL86(14GW8)を採用したのは、6BM8系よりもゲインが高く、今どきのポータブルオーディオのように出力レベルが低めのソースに対応できるから。また、6BM8系は元々ラジオやTV向けに開発された球のようですが、PCL86系はHi-Fiオーディオ用の球であることも素敵です。(球内部のシールドが非常にしっかりしています。) さらに、バイアス電圧が小さくて済む、つまりカソードバイアス抵抗からの発熱が小さい=省電力というオマケも付いてきました。
基板上のジャンパー切り換えでECL86(6GW8)も使うことができます。(6BM8はピンレイアウトが異なるのでTU-8100には使えません、お間違いなきよう!)
ヤケドや、うっかりぶつけて真空管を傷める(ガラスが割れる、ピンが曲がる)ことなどを防ぐためのガードをぜひ標準装備にしたいと当初より考えていました。しかし「装着しない派」という方も多いと思います。そこで、どうしたら装着してもらえるかを考えました。機能的な御利益があればいいはずです。真空管は外部からの振動を拾って内部電極が震えて電気的なノイズを発生してしまう現象(マイクロホンのようなので、マイクフォニックノイズと呼ばれる)が宿命なのですが、真空管をしっかりホールドして「制震プロテクター」という機能を持たせることにしました。しっかりホールドといっても、真空管に密着させては放熱しにくくなり真空管の寿命が縮みます。複数の点接触でホールドすることとして、空気の対流を妨げない形状を試行錯誤していくうち構成部品の形状が音符に似てきたので「音符と五線が音楽と真空管を護る!」ということに。厚紙での形状試作は想像以上に大変で「あ~、も~ イヤ!」と言いながらもいくつも作りました。 製品では真空管の温度に耐えられるよう、調理器具で広く使われている"66ナイロン"製です。
製品版で制震効果を測定してみました。TU-8100に一定の衝撃を与えてスピーカー出力端子に現われるマイクロフォニックノイズ波形を観察したもので、初期振幅が近いものどうしの比較で、上がプロテクターあり、下がなし です。(真空管の個体差の影響がないように同じ真空管にプロテクターを着脱して測定しています)
マイクロフォニックノイズが収束するのに下では600~900ミリ秒ほどかかっているのに対して、上では200ミリ秒くらいで収まっています。・・・ということで、音質向上のためにプロテクターはぜひ装着してくださいね!
最後に、ボリュームツマミについて。プロテクターと同じ材料でできています。樹脂製なんてイヤだという方のためにドレスアップオプション[OP-8100]も準備していますが、実は付属のツマミにウラワザが。内部に3mmのLEDが取り付けでき、指針ミゾ部分を絶妙な肉厚にしてミゾだけが光って見えるようにしてあります。改造派の方はチャレンジしてみてください。
はじめまして。スイッチング電源使用とのこと。真空管アンプの新しい流れを感じます。ところで、PCL86(14GW8)のヒータは12V.元電源は12Vなのでので、ヒータは12V駆動ですか?。それとも、ヒータもSMPSですか。ちょっと気になりました。
コメントありがとうございます。
アンプがシングル(= A級動作)でipがほぼ一定なので、ノイズと効率の点から、スイッチング電源部はスッチングレギュレータではなくインバータ方式を採用しました。
PCL86はヒータ電圧については、テストの結果、11~14.5Vの範囲でipにほとんど変化がなかったため、昇圧せず12Vで使用しています。
ご回答ありがとうございます。結局、
①スイッチングレギュレータでなく、インバータ方式(トランス(1次側でスイッチングで変圧方式)でしょうか。フライバック等で安定化はしてないようですね。
②PCL86(14WG8のヒータ電圧
は、13.0~14.0~14.5Vとメーカによって異なりますね。
真空管アンプは、それなりにおおらかなスペックでできているので、気軽に楽しみたいと思います。今度、秋葉原に行ったとき、購入検討します。
車に積んでみたい!!
もう少しハイスペックなボリュームに交換することはできないか。自力で加工して取り替えた人もいるようだが、基板付きでオプション部品なんか販売したらいいと思う。どうですか。
樹脂製真空管プロテクターがマイクロフォニックノイズにこれだけ如実に効果が有るとは知りませんでした。
タダの火傷防止のガードかと思っていましたが、金属製リングの真空管スタビライザーと有意差は無いのかも知れませんね。
これで樹脂の「クリープ効果」さえ無ければ有りがたいのですが…
しかし、五線と音符まで模ってあるとは聞かなければ(見なければ)わからないところでした。素晴らしいです!
樹脂製のつまみをOP8100の金属製にかえて、つまみを触ると、「ブー」という音が。。
これって、ハムってやつですかね、、、、どう対処したらいいのですかね。。