みなさんは携帯音楽プレイヤーやスマートフォンを持っていますか?
最近では音楽を聴くのはもっぱらスマホとイヤフォンで、という人が多いかもしれませんね。
それではスマホとイヤフォンで音楽を聴くとき、一体なにが起こっているのでしょう。
スマホから送り出された電気信号がイヤフォンを通り抜けるとき、電気の力が磁石の力に変わることにより、空気の波が作り出されます。電気信号とは簡単に言うと「電気の波」のことです。そして電気の波によって作り出された空気の波がイヤフォンから聴こえる音楽なのです。
聴いている音楽をもっと大きな音で聞きたいとき、みなさんはどうしますか?
「ボリュームを上げる」という答えがほとんどでしょうね。それではボリュームを上げたとき、一体なにが起こっているのでしょう。
先ほど、電気信号とは「電気の波」であるといいました。電気の波の「高さ」、「形」、「幅」は、それぞれイヤフォンを鳴らした時の、「音の大きさ」、「音色」、「音の高さ」に関係しています。「ボリュームを上げる」と、スマホからより高い電気の波がイヤフォンに送り出されるようになり、イヤフォンが大きな音で鳴るようになるのです。
それではイヤフォンの代わりにもっと大きなスピーカーを使って、みんなで音楽を聴けるような大きな音を鳴らすにはどうしたらいいでしょうか。イヤフォンとスピーカーでは、大きさがずいぶん違いますね。
軽いイヤフォンの代わりに重くて大きなスピーカーを鳴らすには、電気の波を「太く」してやる必要があります。
このように、電気信号を変化させることを「増幅」といいます。アンプとは増幅を行う機械のことです。真空管アンプでは、この「増幅」を行う部分に「真空管」という部品が使われています。
次に真空管について少しおはなししましょう。
真空管って「電球」に似ていませんか?
実は、真空管は電球の発明と大いに関係があるのです。
19世紀末、白熱電球の研究を進めていた発明王エジソンは、加熱したフィラメントから、電子と呼ばれる電気の粒が飛び出す現象を発見しました。
エジソン自身はこの発見を活かした発明をしなかったようですが、後の研究者により、「電気を一方向にだけ流すしくみ」、「電気で電気の流れ方をコントロールするしくみ」などの使い方が考えだされました。これが「真空管」です。先におはなしした「増幅」も真空管のしくみのひとつです。
「真空管って、なぜ真空なの?」
真空管の説明をするときによく聞かれる質問です。これについても簡単におはなししておきましょう。真空管は加熱したフィラメントから電子が飛び出す現象を利用した装置です。そのためフィラメントの周りを真空(空気がない状態)にしておかないとフィラメントが燃えてしまうのです。
これまでになかった使い方ができるということで、20世紀初頭から中盤にかけて、真空管はさまざまな分野で大活躍しました。「最初のコンピュータ」と呼ばれるENIACには、約17,000本の真空管が使われていたといわれています。
ところが20世紀中盤以降、真空管とほぼ同じことができる半導体トランジスタが作られるようになると、真空管はすぐにトランジスタに取って代わられることになりました。なぜなら、トランジスタは真空管にくらべて、小さく、安い値段でたくさん作ることができ、省エネルギーだったからです。そのため21世紀の現代では、真空管が使われる場面はかつてと比べてかなり狭いものになってしまいました。
しかし、真空管は今でもしっかり活躍しています。次はそのことについておはなししましょう。
増幅とは、電気信号を「高く」、「太く」して大きな音で音楽を聴けるようにすることだ、と先ほどおはなししました。ところが、増幅すると音が大きくなるだけでなく、元の音には含まれていなかった音が混ざって出てくることがあるのです。このことを「ひずみ」といいます。
音を大きくしようとして増幅したところ、元とはぜんぜん違う音が出てくるとしたら、誰もそんなアンプは使いたがらないことでしょう。そのため、アンプの世界では「ひずみ」を少なくするようにいろいろな工夫がされてきました。
実は、真空管アンプは半導体トランジスタを使ったアンプに比べて、ひずみを少なくすることが苦手です。つまり、真空管アンプが鳴らす音は、トランジスタを使ったアンプに比べてたくさんのひずみが含まれているということです。しかし、音楽を聴くときには、真空管アンプのひずみが「役立つ」ことがあるのです。
増幅した時に発生するひずみには、いろいろな種類がありますが、そのひとつとして「高調波ひずみ」があります。かんたんにいうと、増幅する前の電気信号(電気の波)の、幅が1/2、1/3….の波(倍音)が元の電気信号に混ざって出てくるということです。
1/2、1/3….の波が混ざって出てくる、とはどういうことでしょうか。これまたかんたんにいうと、1/2の波とは、元の音の1オクターブ上の音です(つまりユニゾン)。1/3の波とは、元の音と協和する(ハモる)音なのです。
真空管から半導体トランジスタに移り変わるにつれ、どんどん小さくなっていった「ひずみ」ですが、音楽を増幅する場合には必ずしも悪いものとは言い切れません。場合によってはすばらしい味付けにもなるのです。これが現代でも真空管アンプがオーディオファンを惹きつけてやまない理由のひとつです。