2020年度より施行される新学習指導要領を間近に控え、「プログラミング教育を具体的にどのように展開していくのか?」といった教育現場からの声がいっそう高まっています。
今回は、昨年に引き続き秋田県にある国際教養大学様で初日は教員研修、2日目は今年から新たに実施された親子向けのプログラミング研修会に参加してきました。
研修会の前に
教育関係者の開始前のアンケートを見ると、ご自身がこれまでプログラミングを学んできていないことやパソコン操作も不安であることから、プログラミング教育は大変不安であるという意見が多く聞かれました。また、プログラミング環境を整えたり、プログラミング教育について他の先生方に伝達する難しさ、トラブルが発生した場合の対応方法、どのレベルの内容を年間何時間行えばよいのかという参加者の皆さんが置かれた環境から、なかなかプログラミング教育のイメージがつきづらいという声も聞かれました。
また、親御さんもプログラミング教育って一体どんな内容なのか、それに対して家庭では何をすればよいのか、親としてサポートすることができるのかなど、こちらも大変不安な様子が聞かれました。
研修会の内容
さて、当日のコンテンツとしては下記の通りです。
- ワークショップ1:Hour of Codeで簡単なプログラミングのコンセプトを楽しもう
- 講義:文部科学省が目指すところ~AIとプログラミング教育導入について
- ワークショップ2:パソコンを使わずプログラミングのコンセプトを学ぼう
- ワークショップ3:プログラミングキットを体験してみよう
ワークショップ1と2
無料のプログラミングソフトウェア「Hour of Code」や様々なアンプラグド(パソコンを使用しない)教材なども紹介され、参加者の皆さんは徐々にプログラミング教育の具体的なイメージをつかんでいっていました。
Hour of Code(外部ページが開きます)
ワークショップの中で使用されていたアンプラグド教材をひとつご紹介します。
やり方は次の通りです。
- ふたりペアになります
- ひとりは「1マス右へ移動」「1マス左へ移動」「1マス上へ移動」「1マス下へ移動」「マス目を塗りつぶす」の指示(プログラム)を順に紙に書き出します
- もうひとりは指示通りにマス目を移動もしくは塗りつぶしていきます
- 塗られたマス目が意図通りの図案になっているか確認します
終了後は参加者間でどのような意図でそのプログラムとしたのか共有しました。「最短距離で終えたかった」というひともいれば「形を予想できないように書いてもらうと楽しいと思って」などなど、ひとつの図案を描くのにもいろいろな思惑があることを学びました。
会場ではプログラミング教育に関する参考文献やプログラミング的思考を使うボードゲームなども紹介されていました。
講義
講義では、プログラミング教育=課題解決力の育成ということを軸にお話が展開されました。課題解決力には次のステップがあります。
- 課題・問題の分析をする
- 課題・問題の条件をアウトラインする
- 課題・問題の解決に向けてのステップを考える
大きすぎる課題を細かく細分化していき、優先順位をつけて実行していく、ということですね。
ここでは例として、「日常生活や職場でこのような問題解決力を使ったことを話し合ってみてください」という問いが投げかけられました。
すると参加者の先生からは「最近、夫の健康管理を課題に感じています。そのためには、飲酒・喫煙・運動不足といったことを改善する必要があって、まずは運動不足から解消していきたいと思います」といったような回答が得られました。健康管理という課題を飲酒・喫煙・運動不足に分解し、まずは運動不足の解消から解決していくというステップが提示されています。プログラミング的思考は、何も難しいことではなく、ごく身近なところで使用しているという気づきは、参加者の皆さんの大きな安心感につながったようです。
ワークショップ3
そしていよいよエレキットのご紹介です。教員研修ではPIECEを、親子向けのワークショップではPIECEとKOROBO2をご紹介してきました。ここでは親子向けのワークショップの模様をご紹介します。
PIECEのワークショップでは、いくつかのお題をPIECEを使って解決してもらいました。例えばこんな課題。
するとすぐに、明るさセンサと振動モジュールを組み合わせて装置を組み立ててくれました。”明るくなると、振動して起こしてくれる”装置ですね。このようにいくつかの課題に対して、装置を組み立ててもらいました。すごいスピードで装置を組み立てていく子どもたちに大変驚きました。
面白かったのは次の課題。
この課題にある子はこんな風に装置を組み立てました。
カラスがやってきて、ゴミ箱が振動するか、カラスが鳴き声を上げたら、振動して撃退するということですね。
また別の子はこんな風に組み立てました。
論理モジュールに「AND」を使いました。どうして?と聞いてみると、「人間がゴミ箱を開けたとき(ゴミ箱が振動したときに)に振動すると困るから、ゴミ箱の振動とカラスの鳴き声が同時に起こったときだけ振動するようにしてみました」とのこと。なるほど!
さらに別の子はこんな風に組み立てました。
意図を聞いてみると、「カラスがやってきて(カラスの影で)暗くなって、そして鳴き声をあげると振動して追い払うことを考えました」。なるほどこれもおもしろいですね。
このように、ひとつの課題に対して解決策はたったひとつではなく、いろいろなアプローチがあることを知ることこそ、プログラミング的思考で最も大事なことだと思います。他の友だちの意見を「うん、うん」とうなづきながら興味深く様子が印象に残りました。
また、自分が考えた装置を簡単に組み立てることができてまわりの友だちに簡単に共有できることや、自分が作った装置の反応がリアルに返ってくることは、ハードウェアならではの強みだなあと思いました。パソコンに向き合ってるばかりではなく、モノの動きをリアルに体験することで子どもたちの目が輝き、会場は大変盛り上がりました。
最後にKOROBO2を使ったワークショップを行いました。
ワークショップの内容はこちらの記事と同様、「おそうじロボをつくろう」です。
お題としては次の通りです。
- 2秒前進、1秒後退しよう
- 2秒前進、1秒後退を3回繰り返そう
- 2秒前進、1秒後退を無限回繰り返そう
- 右のタッチセンサが触れたら2秒後退して方向転換しよう
- 右と左のタッチセンサが触れたら2秒後退して方向転換しよう
簡単な操作方法を教えるだけで、次々に課題をこなしていく子どもたち。
アンケートでもKOROBO2を使ったワークショップは子どもたちに大変好評でした。
- 初めてプログラミングして、自分で思考しながらプログラムし、その通りに動いたロボットを見て感動した
- ロボットが指示通り動いてくれたことがうれしかった
- 普段自分たちが目にしている物のいろいろなプログラミングが面白かった
はじめてのプログラミングで繰り返し処理や条件分岐などはやや難易度が高いのではないかと不安でしたが、子どもたちがパソコンに何の躊躇もなく、どんどんプログラミングしていく様子はとても頼もしく見えました。これから開始されるプログラミング教育を不安に思っているのは実は大人たちだけで、ちょっとしたきっかけだけ与えてあげれば、子どもたちは自ら進んで学んでいくのかもしれません。そんな明るい未来への期待を子どもたちに見せてもらったように思います。
ワークショップを終えて
先生も親御さんもプログラミング教育のイメージがグッとクリアになっていたようです。コンピュータそのものよりも論理的思考や課題解決力が求められる教育だと理解できたこと、それは普段から知らず知らずのうちに行っていること、一つだけの正解はなく、いろいろな考え方があっていいと実感できたこと。それらを理解することで、これまでのもやもやが晴れたという声が多く聞かれていました。また、これまでプログラミング教育といえば算数・理科・総合のみで行うイメージしかなかったけれど外国語など他の教科の中でも行えそうなど、具体的な授業づくりのイメージを持てたとおっしゃる方もいらっしゃいました。
そして、今後自らの生徒やお子さんと「プログラミング教育の考え方を共有していきたい」という声も聞かれました。先にも書きましたが、子どもたちはパソコンやプログラミングに驚くほど躊躇することがありません。何も先生や親御さんたちだけが不安になることはなく、プログラミング教育の本質を理解し、子どもたちといっしょに授業をつくっていくという方法もありえます。これまでの一方通行の授業ではなく、そうした新しい授業から、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)が実現されていくとよいですね。