レポート

エレキットの最高傑作「TU-8800」のことを開発者に聞いてみた

先週金曜の10月18日にいよいよ出荷開始となった多極管シングル真空管アンプキット [ TU-8800 ]。

エレキット史上最高傑作との呼び声も高い本作品の開発者に開発の裏話を聞いてみました。

 

TU-8800を前にするエンヂニアこと藤田芳継

 

インタビュアー:新製品のTU-8800は、KT88を使用してTU-8200Rよりも一回りパワーが大きいアンプという印象ですね。TUシリーズはこれまでユニークな機能や試みがありましたが、TU-8800では新機能がありますか?

 

エンヂニヤ:TUシリーズは独自の「アクティブ・オート・バイアス」回路で出力管の挿し替えができるアンプとして定評をいただいていますが、TU-8800ではその幅が広がりました。

 

インタビュアー:といいますと?

 

エンヂニヤ:バイアス回路とB電源電圧の切換(パワーモード切換スイッチ、HIGH-MID-LOW)により、KT150のような最大定格の大きな真空管はもちろん、6V6やら6F6のような小出力管まで、広い範囲の出力管に交換ができるようになりました。

 

 

パワーモードを落とせば、6V6などの小出力管を普通は出力の大きな真空管で使う余裕あるトランスで鳴らしてみるという愉しみもあるし、逆に定格の大きな真空管を低いパワーモードで動作させて普段は節電と出力管の負担を軽くするという使い方もできますよね。

 

 

インタビュアー:なるほど、挿し替えできる真空管の範囲がさらに拡がったんですね。

TU-8200以来好評の、出力管結線モード切換機能は今回も付いてるんですか?

 

エンヂニヤ:もちろんです。五極管やビーム管は、スクリーングリッド(第2グリッド)をプレートに接続すると、特性がガラッと変わって三極管特性となるんですよ。TU-8800ではUL(ウルトラリニア)結線と三極管結線がスイッチで切り換えられるようになったので、音の違いがより簡単に愉しめます。

 

 

ところで、パワーモードHIGHやMIDでは、どちらかと言うと低めのプレート電圧をかけ、高めのプレート電流で動作させているんですが、これはUL結線や三極管結線を採用しているからなんです。

多くの真空管はスクリーングリッドの耐圧はプレートの耐圧より低ので、低いほうの電圧までしかかけられないですからね。

 

インタビュアー:TU-8200から始まった「アクティブ・オート・バイアス」回路ですが、今一度、従来のバイアス回路との動作の違いを教えてください。

 

エンヂニヤ:真空管のバイアスは、一般的には大きく2つの方法があるんです。

ひとつは、カソード抵抗の電圧降下分をバイアス電圧として利用する「カソードバイアス」法。部品点数が最少でシンプル、それとカソード電流で帰還がかかって真空管の個体差があってもちょうど良い点でバランスするので「セルフバイアス」とも呼ばれています。ただ、カソード抵抗がかなり電力を消費して発熱が大きく、特性が異なるほかのタマに交換したい時は抵抗値を変更しないといけないという短所があります。

もうひとつは、バイアス用電源から一定の負電圧をコントロールグリッドに与える「固定バイアス」法で、真空管の個体差に合わせてバイアス電圧を手動で調整する必要があり面倒なんですが、逆にいえば、調整によってほかの真空管に合わせることが出来る、ということ。「…ということは、低損失でカソード電流を検出して、それを一定値に保つようにバイアス電圧を自動調整すれば、いいとこ取りのバイアス回路ができる」と思って開発したのが「アクティブ・オート・バイアス」回路です。

従来の「セルフバイアス」がパッシブ(受動的)なオートバイアスなのに対して、アクティブ(能動的)なので、このように名づけました。

 

インタビュアー:B電源のリップルフィルター回路はTU-8800でも左右別々ですね。

 

エンヂニヤ:TUシリーズではすっかりおなじみになった、パワーMOSFETを使用したリップルフィルターのことですね。真空管アンプでは、B電源のリップルを低減させるのにチョークトランスを使うのが一般的ですよね。

だけど、チョークトランスは「大きい」「重い」「コストが高い」の三重苦(笑)でしょ。今ではパワー半導体が普及して安く手に入る、これを使わない手はない、と思ってTU-879から採用したんです。

チョークトランスは高価なので、よほどのハイエンド機ではない限り1個で左右チャンネル共用することが多いんですけど、MOSFETなら低コストで左右それぞれにリップルフィルターを設けることができますよね。

そうすることで、左右間のセパレーションも良くすることができたということです。

 

インタビュアー:もうひとつ、TU-8200でも気になっていたのですが、基板に斜めの細かいパターンが連続している部分がありますよね。これは何ですか?

 

 

エンヂニヤ:入力ジャックから入力切換スイッチを経てボリュームに至る、入力ラインのことですね。

入力ラインは外部からのノイズが侵入しやすいので、背面のジャックからボリュームや初段管がある前面まで、長い距離を配線しないといけないでしょ? 静電的ノイズだけなら対策は簡単だけど、磁気的ノイズは基板上では簡単にはいかない。

トランスからは磁気ノイズが漏れ出るので、できるだけそれを拾わないようにしないといけないんですよ。

電磁ノイズの対策には2本の電線をより合わせる「ツイストペア」が有効なんですけど、それを基板上で実験を重ねたら基板でも有効だったんですよ。

 

インタビュアー:あれはツイストペアだったんですか!ところで、出力トランスから出てるワイヤーの本数が多いみたいですが?

 

エンヂニヤ:実は、出力管にカソード帰還をかけてるんです。青と白のワイヤーはそのための三次巻線です。

 

インタビュアー:ほかに目立たないけれど小さな改良点などありましたら。

 

エンヂニヤ:スピーカとヘッドホンの切り換えにリレーを採用した点かな。

今回のアンプはパワーが高めなので、そのラインを前面側にあるヘッドホンジャックまで往復の引き回しするのは「何だかな~」と思って、基板パターンの電気抵抗、接点抵抗などを検討してみたんです。

その結果、出力ターミナルの近くにリレーを配置してそれで切り換えた方が有利と判ったんです。

普通のリレーだと、ヘッドホンで試聴中に電源を切った時にリレーの接点が戻って、一瞬スピーカから再生音が出るなんてことになりそうなので、2巻線ラッチングリレーというのを採用してます。

それから、電源スイッチはこれまでトグルスイッチを採用してましたが、今回は両切式のプッシュ式を採用しました。

 

インタビュアー:何か裏話などありましたら。

 

エンヂニヤ:そうそう、出力トランスの試作を依頼するとき、いつものトランスメーカーさんに「今回、コアはオリエント、巻線はOFC(無酸素銅)を使ってみていただけませんか」と打診したら、「ウチは基本的に全てオリエントコアとOFC使ってます…」だって、「こりゃとっても失礼しました!」

だから実はTU-8200系、8600系などもそうだということです。どうりで、クオリティが高いと思ってました(笑)。

あと、今回は抵抗は何だかオーディオマニアの間で人気が高いタクマン社製を採用しました。

 

インタビュアー:小さな努力の集積なんですね。今日はほんとにありがとうございました。

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